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::突発的にオリジナル小説とか③
空に海ができるとき(仮)

act.3






「来るぜ、ユキ。俺たちの新時代だ!」

 手にした木の枝をぶんぶん振り回しながら、マサは山道を駆け上がった。
下山するのにも困難だろうという地点まで僕たちは来ており、元気で体力の有り余ってるマサと違って、僕は既にくたびれていた。
懐中電灯に非常食、お菓子に着替えが入ったリュックを背負いながらも、あのように走り回れるなんて、僕からすれば異常だ。
肩で息をする僕をマサは「もうちっとだぜユキ!しっかりしろよ!」と言って励ましてくれるが、その励ましは僕にとって苦痛でしかないことは、彼は理解していないだろう。

 「明日、遊船入りの積乱雲が俺たちの県に入る。それを狙って、今から巡央山に登ろうと、俺は思う!」
ふと、マサが昨日言っていたことを思い出した。
彼はあの後家に戻り、身支度をすばやく整え、無関心な僕をひっぱってこの山へ登り始めたのだ。
ちなみに僕は、突然のことでもあったので何も準備はしていない。
それを承知で、マサは明るく「何があったときは俺のを使えよ!」と言ってくる。
どうも僕は、彼のこの態度に逆らう気が起きない。

 掌を膝について項垂れる僕に痺れを切らしたのか、マサは僕へ駆け寄った。

「ユ~キ~。もうすぐ遊船なんだ。早くしないと雲が遠くへ行っちまう。疲れてるのは分かってるけどさぁ…、せめて歩いてくれよ~」

駄々をこね始めた彼を冷静な目で見られる僕は、彼の友だちで良いのだろうかと思ってしまう。
水でも飲むか?と気遣いをし始めた彼に、僕は短く礼を述べた。

 今僕たちは霧の中にいる。
これが遊船へと近づいている証拠なのかどうか分からないが、霧がどんどん濃くなっている気がした。
それと共にマサの興奮ボルテージも上がっている気がする。
何がそんなに良いのだろうかと頭の片隅で考えるのは、彼と出会ってから止めた。
そう考えるのは、彼に対して失礼だと思ったからだ。

「はぁ…、はっ、頂上まで体力が持つか分からないけど、僕がんばってみる…」
「おっし!そうこなくっちゃな!」

社交辞令にも似た僕の決意表明を、マサは無邪気な笑顔で受け取った。
 マサはまた、リュックをけたたましい音を立てながら駆け上っていく。僕も、彼に着いていこうと必死に脚を動かした。
 テレビで天気予報があるように「遊船予報」や「遊船接近緊急速報」などがある。
これを語るとき、ブラウン管の中にいるアナウンサーは至って真面目な顔だった。
よくよく周囲を見ると、担任の先生や他の大人たちもそのアナウンサーと同じような顔をしていた。
何故大人たちがこうして遊船を恐れているのか不思議でならなかった。
遊船のこととなると子どもは興味津々で聞くし、遊船の研究にご熱心な学者と呼ばれる人たちもいる。けれど、遊船を楽しむ者に注意をするなどという光景は、今まで目にしたこともないし、テレビでもそのような話を聞かない。
一度、僕と同じようにさほど世間への関心のない両親へ聞いたことがある。
「何故世の中の大人は遊船を恐れるのか」と。
両親はいつもと変わらぬ表情で、「さぁ」と短くしか答えなかった。
そして僕も「そんなものか」と思うしかなかった。そう記憶している。

「俺の母ちゃんにさ、遊船へ行くこと言ったら泣かれたよ。何が哀しいんだろうな。こんなにも世界を話題にさせるもんって他に無いのに。何で泣くんだろうな」
「止められた?」
「んぁ、止められた。でも俺はそれを聞かないで外に飛び出しちゃったからな」
「…戻りたいの?」
「まさかぁ!目の前に遊船があるんだぜ!今更戻れるかよ!…ま、罪悪感みたいなもやもやしたもんはあるけどな」
「ふぅん」

巡央山という山はそれほど高い山ではなかったはずだが、登るにつれて酸素が薄くなってきていることに気づいた。
これも遊船の所為なのだろうか。
そも、遊船とは僕らにとって有害なものであるのか無害な者であるのか。それを判断しないで登る僕らは馬鹿だと思う。

「おいユキ!」

酸素の薄さを感じさせない元気な声が、思考の渦から僕を引き出した。
何か発見したらしい。
マサは珍しく顔を強ばらせて、目の前にあるそれを指さした。

「あれ…」

それは、ミイラ化した死骸だった。
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