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::クリアしたいお題その④・十分の六の半分の半分
恋のはじまりを告げた夏の陽射

01 恋のはじまりを告げた夏の陽射
02 じれったくて、たまらない。
03 シューティングスターハッピー
04 見上げれば、誓った夢
05 青空の未来
06 心を揺らす青春時代
07 愛を嘆く雨
08 誰にもゆずらない未来の道標
09 オレンジ色の記憶
10 いいことがやまない



恋の始まりを告げた夏の陽射 09-3



 春。僕は大学へ進学した。
初めて手にした携帯を、この期に買い換え、真新しい携帯で新生活を迎えた。もう携帯電話の扱いなら大丈夫だ。購入当初30分もかかっていた単文のメールも、今では1分しないで打てるようになった。
あれから待ち受けの画像だって変えたし、着メロだって変えた。
ただ変えていないのは、携帯番号と、彼女専用に設定した着信だけ。
 結局、あれから彼女から連絡は一切こないでいる。
無理もない。僕は彼女にひどいことをしてしまった。僕が勝手に喧嘩をふっかけて、一人で喚いて、一方的に電話をきったのだから。
彼女が僕を見捨てても可笑しくない結果だった。
僕が彼女からもらったものはたくさんあるのに、僕が彼女に最後に贈った言葉は、彼女が嫌った「さよなら」という別れの言葉だ。
 僕は最悪な人間だ。
そんな僕が人を導くことを学ぶ資格なんてないと思う。だけど、彼女と以前約束したんだ。
互いの夢を、必ず叶えよう。と。
だから、僕はその約束を守るためにがんばろうと決意した。

 大学に入ってから、僕に友だちができた。
彼女以外の友だちはいらないと、当時の僕は思っていたが、何故か自然とまわりに友だちという存在ができていた。
 これも、彼女のお陰なんだと思う。
今まで人との交わりを拒み続けていた僕は、人との接し方を忘れてしまっていた。だが、彼女が僕にそれを思い出させてくれたんだ。
彼女が僕に与えてくれたものが数限りないことに、今になって気づかされた。
僕の対人恐怖症にも似たこの感情やトラウマを、彼女が優しく溶かしていってくれたんだ。
 途端、僕は彼女と話したくて話したくて仕方なくなった。
まずあの時のことを謝って、僕自身が愚かだったということを伝えなければ。そして、彼女から与えられた様々な力に感謝しなければいけないと思った。
君が僕を許してくれるなんて思ってもいないけど、僕は君に感謝の言葉だけは伝えたいんだよ。あぁ、今君はどうしているんだい?

 僕は、新調した携帯で、初めて彼女へ電話を掛けてみた。

「…もしもし」
「もしもし…」

「え…?」
「え?」

どういうことなのか。
思考回路が停止したように、僕は一瞬動けなくなった。
何も考えられなくなった。

なぜなら

受話器から聞こえるはずの声が、同じタイミング、同じ言葉が、僕の近くで聞こえたから。
どうしてだろう。此処は僕が通う大学の筈。
もしかすると

「近くに、いるんだ…!
あの、あのさ…!一端電話を切るから、もう一度!君から僕に電話を掛けてみてよ!そしたら、僕、君を見つけられると思う!」
「…わかったわ」

 僕と彼女は互いの顔を知らない。
顔を知れば、その印象で相手がどんな人物が偏見で見てしまうかも知れないと。二人で決めた物事の一つだったから。
 僕は慌てて電話を切り、あたりを見回した。
そこは食堂へ通ずる廊下との間に設けられた中庭で、僕のお気に入りの場所だった。
そこには僕以外にも20人ほど人がいる。
普通なら顔の知らない人間を見つけるのは苦労するだろうが、この時の僕は、必ず彼女を見つけられると自信に満ちていた。

 彼女からの着信が、きた。
Min-ne*singerのブラックポプラ。僕が受験勉強に勤しんでいた時、励まされた大好きな曲だ。
メロディが鳴る中、僕は必死になって彼女を捜す。

 何処に。なんで。どうして。
ああ、聞きたいことや言いたいことが山ほどあるんだ。
それも携帯電話の会話じゃなく、直接君と会って話せるんだから、僕は嬉しくて泣いてしまうかも知れない。
今、君に会いたくて仕方ないよ。

「は、はは…、見つけた…」
「…あなたが…」
「あぁ、僕だよ」

鳴りっぱなしになっている携帯の通話ボタンを押した。
彼女も同じように携帯を耳に当て、言葉を発した。

「そうか。君だったんだね」
「…うん」
「会いたくて、仕方なかった。そして今、やっと」

目の前にいる女性の目を見ながら、はっきりと口にした。
僕は、静かに携帯を閉じて

「こうして出会えた」

携帯で話す僕の声ではなく、本物の僕の声で、彼女に伝えた。

「いや、僕たちはずっと出会っていたんだね」

彼女は、僕がこの大学に入って初めてできた友だちだった。
 声を掛けてきたのは彼女から。どことなく聞き覚えのある声だとは思っていたけど、やはり携帯という媒体を通して発せられた声と、本来の声は違っていた。
本来の声の方が、ずっと澄んでいる。

「予想通り、君は、綺麗な人だ」
「やだ。やめてよ。いつも通りにしてほしいんだけど」
「…そうだ。そうだな…」

そして僕らは、いつも通り互いの名前を呼び合った。
ただいつもと違うのは、その言葉に今まで以上にない想いを載せて、相手に伝えたということ。

「ごめんな。そして、ありがとう」

僕の初めての友だち、初恋の人へ。



オレンジ色の記憶
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