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::クリアしたいお題その④・十分の五
恋のはじまりを告げた夏の陽射

01 恋のはじまりを告げた夏の陽射
02 じれったくて、たまらない。
03 シューティングスターハッピー
04 見上げれば、誓った夢
05 青空の未来
06 心を揺らす青春時代
07 愛を嘆く雨
08 誰にもゆずらない未来の道標
09 オレンジ色の記憶
10 いいことがやまない



恋の始まりを告げた夏の陽射 05



 夏は日が長い。
一般教養を持つ者なら誰でも知っているそれに、違和感をもったことはない。
ごく普通の、当たり前の常識とされる知識に、私たちは慣れていた。
慣れすぎた。

×

 夏は日が長い。
初めてそれを知ったとき、暑い夏だからこそ、神様がくれた特別な時間なんだと。子どものころ、考えたときがあった。
日が長ければたくさん遊べる。それしか頭になかった時代だ。
今はもう、遠い昔となってしまったが。

×

「今日も暑いですね」
「あぁ」
「あの子は友だちと一緒に海へ行くんですって」
「そうか」
「夏は、日が長くて良いですね」
「そうだな」

 淡々とした会話。
長年連れ添った妻は、今まで私に逆らうことなく、従順についてきてくれた。
そんな妻を、私は突き放すことはしない。
逆らうということを知らない妻は、一般的に良妻と考えるが、それは刺激が足らないということにもなる。
こんな生活にも慣れすぎて、疲れてしまった私がいた。
暑い日々も、もうたくさんだ。

「あの眩しいくらいの太陽も、さわやかな青空も、今でないと見られませんね」
「こんなのが一年中続いたら厄介だよ。今だけで十分だ」
「そうですね」

スイカでも切りましょうか。
そう言って、台所へ立った妻の後ろ姿をぼんやりと眺めた。
いつもと変わらぬその光景に、やはり刺激がないなと息を吐く。
私は再び新聞へ目をやった。

「あなた、午後から何処かに行きませんか」
「外は暑い。こうやって家で涼んでいる方がマシだ。好きこのんでこんな日に外へ出たがるなんて、どうかしてるよ」
「…そうですね」

せっかくの休みの日ぐらい、家で涼んでいたい。そう思っても、罰は当たらないだろう。
私は妻の誘いを断った。

 文字を文字としてみているのではなく、ただの絵柄としてとらえていることに気づいたのは、妻がスイカを持ってきてくれた時だった。

「…あの青空も、いつか夜という終焉を迎えます」
「なんだ。詩人みたいなことを突然」
「夏の夜は、昼間と違ってとても涼しく、時には冷たい風を吹かせることもあります。星が見えない夜は、空は気味が悪いくらい恐ろしい。
まるで月は見放されたように、寂しく一人彷徨っているようです」
「どうした?」
「あなた、離婚しましょう」

 鈍器で頭を殴られたかと思った。
それぐらいの強い衝撃。頭の中が白くなるなんて一度もなかったが、今それを体験した。

「お前何言って…」
「私はもう、こんな暑い日々も、あなたにも疲れてしまった…」

 夫婦とは不思議なもので。
本当に以心伝心ができる絆を持っていると、この時改めて思い知らされた。

「今日が何の日か忘れてしまったあなたとは、もう一緒にはいられません。
もう日も暮れて、あの子も帰ってきます。
その前に、空が終焉を迎える前に。私たちも終わりを迎えましょう」

さようなら。
突然突きつけられたその言葉と、印の押された紙を理解するには、予想以上の時間がかかった。
それを理解し、理由を問いただそうとしたときには、既に妻の姿は無かった。
 この日を、この時を待っていたかのように、妻は出て行った。

「ただいまぁ」

 聞き慣れた声がしたので、焦るように玄関まで行くと、娘の顔があった。
妻と酷似しているその声は、再び私を落胆へ突き落とした。

「お父さん、今日は記念の日なんでしょ?
お母さん言ってたよー。今日はお父さんと出会えた日で、婚姻届けを提出した日だって。
毎年お祝いなんてしてないけど、今年は特別!結婚25年目の銀婚式だね!
私ふたりに気を遣って今日一日出掛けたんだから!
お父さん、お母さんに何かしてあげた?」

 妻の行く当ては分からない。
彼女の両親は既に他界しているし、親戚とも絶縁状態だ。
そんな、行き先の知れない妻を連れ戻すなんて、無理なことだ。
 私はやはり慣れすぎた。慣れすぎたこの日々に後悔した。
後悔しても後悔しても戻らない時を、恨めしく思った。

「ねぇ、お母さん何処?」

応えられない。応えられるはずもない。

「これ何?」

娘がこれと指す紙は、冷蔵庫に貼り付けられていた。
その冷蔵庫には、昼間妻が切り分けてくれたスイカの半分が入っている。

“あなたも、刺激が欲しかったのでしょう?”

私はその時確信した。
夜がきてしまったと。
そしてその夜は、二度と明けない夜だということも。



青空の未来
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